賃貸物件の募集要項の中に“取引態様:仲介”などと言う表記を目にすることがありますが、これが何を表すのかご存知でしょうか?
今回は、その詳細を解説します。
取引態様=取引の形態
取引態様とは、住宅の賃貸や売買に不動産会社や宅地建物取引業者がどのような立場で関わるのかを示すものです。
“取引形態”と呼ばれることもあるようですが、取引態様によって借主が支払う費用や不動産会社の借主への重要事項の説明義務などが異なることがポイントです。
3つの取引態様
住宅の賃貸借契約には、①貸主、②代理、③媒介(仲介)の3つの取引態様が存在しますが、以下でそれぞれの詳細を解説します。
3つの取引態様取引態様 | 宅地建物取引業法の規制 | 特徴 | 手数料 |
貸主 | なし | 不動産会社が貸主であり、借主に直接住宅を賃貸する。 | なし |
代理 | あり | 貸主(オーナー)の代理として不動産会社が募集や契約を行う。 | なし |
媒介(仲介) | あり | 不動産会社が貸主と借主の間に入り取引する。 | あり |
貸主
“貸主”は、貸主自らが賃貸住宅を直接賃貸する形態です。
この場合の貸主とは不動産会社のことであり、不動産会社が所有する物件を直接借主に賃貸しするため、仲介手数料が発生しません。
また、賃貸借契約において取引態様が貸主の場合には不動産会社が重要事項説明(対象物件や契約条件についての重要な事項の説明)の義務を負いませんので、後々のトラブルを避けるためにも、契約前に借主から詳細の説明を要求することが望ましいでしょう。
代理
不動産会社が貸主(大家)に代わって借主に住宅を賃貸する形態が“代理”です。
貸主と同じ立場もしくはそれに近い立場で不動産会社が募集や契約業務を行いますが、原則として仲介手数料が発生することはありません(貸主が不動産会社に一定額を支払うケースもある)。
住宅の賃貸借においては珍しい取引態様とも言え、代理の形態で賃貸が行われる物件の数は仲介と比較して圧倒的に少ないのが実際のところです。
取引態様が代理の場合、不動産会社は借主への重要事項説明義務を負います。
媒介(仲介)
住宅の賃貸借において最も多く採用される媒介(仲介)は、不動産会社が貸主と借主の間に入って契約成立のための業務を行う形態です。
賃貸住宅を探す入居者と住宅の借り手を探す大家とを結びつける仕事とも言え、文字通り不動産会社が仲介役を果たすわけですから仲介手数料が発生します(上限は1月分の賃料に消費税分を加えた金額)。
仲介の性質を考えれば貸主と借主の双方が手数料を負担するのが原則のように思えますが、実際には借主が全額を負担するケースがほとんどであり、貸主と借主による仲介手数料の折半が行われることは決して多くありません。
例外として、入居率が悪く空き物件が多く存在する地域では、契約成立のための戦略として借主の代わりに貸主(大家)が仲介手数料を全額負担する事例が見られます。
取引態様が媒介の場合、代理の場合と同様に不動産会社は借主に対する重要事項の説明義務を負います。
媒介契約の種類
貸主と不動産会社との関係において、媒介(仲介)は、①一般媒介、②専任媒介、③専属専任媒介の3つの形態に細分類されますが、以下で詳細を解説します。
3つの媒介契約他社との契約 | 貸主と借主の直接契約 | 契約期間 | 指定流通機構への登録義務 | 業務処理状況の報告義務 | |
一般媒介 | ○ | ○ | なし | なし | なし |
専任媒介 | × | ○ | 3ヶ月以内 | 契約締結から7日以内 | 2週間に1回以上 |
専属専任媒介 | × | × | 3ヶ月以内 | 契約締結から5日以内 | 1週間に1回以上 |
一般媒介契約
一般媒介契約では、貸主(大家)が複数の不動産会社に仲介業務を依頼することができます。
その他、貸主自らが借主を募集して契約することもできますが、仮に大家が自分で入居者を見つけたとしても最終的に契約を締結するにあたり手続きを不動産会社に任せるケースが多いようです。
一般媒介契約には法的な契約期間の制限はなく、指定流通機構への登録義務や貸主への業務処理状況の報告義務もありません。
ただし、貸主が指定流通機構への登録や業務状況の提供を請求することは可能です。
専任媒介契約
貸主が1つの不動産会社にのみ仲介業務を依頼することができる点が専任媒介契約の最大の特徴ですが、契約を結んだ不動産会社には法令により様々な義務が課せられます。
契約の有効期間は3ヶ月(更新可能)で、不動産会社は契約締結から7日以内に指定流通機構へ対象となる物件の情報を登録しなければなりません。
また、2週間に1回以上のペースで依頼主である貸主に仲介業務の状況を報告する義務を負います。
専任媒介契約においては、一般媒介契約と同じく、貸主が自ら入居者の募集や契約を行うことができます。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約では、貸主が複数の不動産会社に仲介業務を依頼することができない他、貸主が自ら借主と賃貸借契約を締結することもできません。
よって、貸主が自ら借主を見つけた場合にも、不動産会社に契約業務を依頼することになります。
貸主との契約期間は3ヶ月で専任媒介契約と同じですが、契約締結から5日以内に指定流通機構への対象物件の登録を行わなければならない、1週間に1回以上の頻度で仲介業務の実施状況を貸主に報告しなければならないなど、不動産会社がより厳しい法規制を受けることが特徴です。
様々な義務が課せられるとは言え、専属専任媒介契約(専任媒介契約)では不動産会社が対象となる物件の契約をライバルとなる他社に奪われる心配がなく、不動産会社にとってメリットが大きい契約形態と言ってよいでしょう。
実力のない不動産会社と専属専任契約を結んでしまうと貸主(大家)にとっては最悪ですが…。
まとめ
住宅の賃貸借には、①貸主、②代理、③媒介(仲介)の3つの取引態様が存在し、その形態によって借主が支払う仲介手数料や不動産会社による借主への重要事項の説明義務の有無などが異なる場合があります。
実際には現在行われている賃貸借のほとんどが媒介を採用しており、不動産会社への仲介手数料が発生していますが、借主がその全額を支払うケースが多いことも覚えておきましょう。
まとめ
- 住宅の賃貸借には①貸主・②代理・③媒介(仲介)の3つの取引態様が存在する
- 現在行われている住宅の賃貸借のほとんどが媒介によるものである
- 媒介(仲介)には一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3つの形態がある
終わりに
今回は、住宅の賃貸借における取引態様について解説しました。
借主があまり意識せずに契約に至ることも少なくない取引態様ですが、その形態によって仲介手数料や重要事項説明義務の有無が異なりますので、契約を結ぶ前に必ず確認しておきましょう。
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