たすき・チラシも違反!? 公示前に注意すべき政治活動のまとめ!

事前運動

選挙期日の公示日(告示日)が近づくと、立候補予定者が必死に街頭演説を行う光景を目にしますが、たすきを使用しての政治活動が公職選挙法に抵触する恐れがあることをご存知でしょうか。

今回は、たすきの使用をはじめ、公示前にやってはいけない政治活動に注目します。

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選挙運動と政治活動

はじめに、選挙運動政治活動の違いを確認しておきます。

選挙運動とは、特定の選挙において特定の候補者の当選を図ること及び特定の候補者を当選させないことを目的として選挙人に働きかける行為のことを言います。

一方の政治活動は“政治上の目的を持って行われる一切の活動から選挙運動を除いたもの”であり、具体的には、政治団体の政策の宣伝や党勢拡大のための街宣活動などがこれに該当すると考えてよいでしょう。

選挙期日の公示(告示)前に政治活動を行うことは可能ですが、事前運動の禁止や文書図画の掲示の規制に抵触してはなりません

事前運動の禁止

選挙運動は選挙運動期間中(=公示日〜投票日の前日)に限り行うことができ、公示前に選挙運動を行うことは禁止されています(事前運動の禁止)。

公示前に政治活動を行うことは可能ですが、あくまでもその範囲内で行うことが条件であり、選挙運動に該当する行為をしないように注意しなければなりません。

例えば、公示日の前に立候補予定者や政党が街頭演説をする場合、立候補予定者および政党の政策や考えを述べる分には構いませんが、“〇〇に投票してください”などと訴えることは厳禁です。

文書図画の掲示の規制

公職の候補者または立候補予定者(公職にあるものを含む)が、①その氏名を表示する又は②その氏名が類推されるような事項を表す及び③その後援団体の名称を表示する文書図画を掲げて街頭演説等の政治活動をすることは禁止されています(公職選挙法第143条第16項)。

ここで言う文書図画とは、立て札や看板の他、腕章、たすき、プラカード、のぼりなどが広く該当しますが、例えばある選挙への立候補予定者が公示前に自らの名前入りのたすきを着用して演説を行うことはできません。

“政治活動だから公示前でも大丈夫”と安易に考えることがないように注意しましょう。

ただし、政治家や政治団体が政治活動のために開催する講演会や研修会などの会場で、それらの開催中に限って上記の文書図画を掲示すること、政治活動用の事務所に一定数の範囲内で立て札や看板類を掲示することは許されています。

文書図画の規制を受けるもの

  • たすき
  • 胸章
  • 腕章
  • のぼり旗
  • 立て札
  • プラカードなど

注意すべき活動

選挙期日の公示前に政治活動を行うことは可能ですが、事前運動の禁止や文書図画の掲示の規制に抵触することがないようにしなければなりません。

以下で、特に注意すべき行為を解説します。

注意すべき行為

  • たすきの使用
  • のぼりの使用
  • チラシ配り
  • ポスターの掲示
  • 演説の内容

たすきの使用

候補者の名前入りたすきの使用は、選挙運動期間中、当該選挙への立候補者に限り認められる行為であり、公示前にこれを着用して街頭演説等を行う行為は事前運動に該当する恐れがあります。

また、政治活動のためであっても、公職の候補者等が自らの名前入りのたすきを着けて街頭演説等を行うことは文書図画の掲示の規制に抵触します(たすきの他、胸章や腕章、プラカード等の使用も同様の扱いを受ける)。

以上の2点を根拠に、立候補予定者が選挙期日の公示前に名前入りのたすきを身に着けて街頭演説等の政治活動を行うことはできません

一方、公職の候補者等の氏名または氏名が類推される事項が表示されないものは使用可能とされており、公示前に立候補予定者が“本人”と書かれたたすきや政党名が書かれたたすきを身に付けて街頭演説を行うケースが増えているようです。

のぼりの使用

たすきと同じく、文書図画の規制により、公職の候補者等が候補者等の氏名または氏名が類推される事項が表示されるのぼり(のぼり旗)を掲示して街頭演説等の政治活動を行うことは禁止されています(政党名や政策のみが書かれたものは使用できる)。

従って、選挙期日の公示前に候補者が名前入りののぼりを用いて街頭演説を行うことは公職選挙法に抵触しますが、政治活動用の事務所に掲示することは可能です。

なお、選挙運動期間中であっても、のぼりを掲示して街頭演説等を行うことはできません。

チラシ(ビラ )撒き

選挙期日の公示前にチラシ(ビラ )撒きを行うことは可能ですが、例によって選挙運動に該当しない程度、つまり“政治活動の範囲内”で行う必要があります

例えば公示前に政党等が自分たちの政策を記載したチラシを配布することがありますが、選挙運動ではなく、あくまでも政治活動の一環として行うものである限り違法性はありません。

一方で、特定の選挙の選挙名や“〇〇に1票を”、“選挙公約”等の文言を用いると選挙運動と見なされますので、表現には細心の注意が求められます。

なお、チラシへの立候補予定者の名前や顔写真の掲載については、投票を依頼する表現が記載されていない限り合法とする考え方と、選挙運動(=事前運動)に該当すると言う考え方が存在しており、いわゆるグレーゾーンに該当すると言えるでしょう。

ポスターの掲示

文書図画の掲示の規制により、選挙前の一定の期間(下の表)は、公職の候補者等(現職や立候補予定者を含む)の氏名または氏名が類推されるような事項が記載されるポスター、候補者等の後援団体の名称が表示されるポスターを掲示することができません。

禁止期間の前に掲示されたポスターでも事前運動と見なされる場合がありますし、禁止期間に入っても継続して掲示される場合は選挙管理委員会による撤去命令の対象とされ、これを無視した場合は処罰の対象となります(2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金)。

“政治活動用のポスターだから大丈夫”と油断すると大変なことになりますので、注意しましょう。

また、据え置き型の折りたたみ式掲示板などに政治活動用のポスターを貼り付け街頭演説等に使用することは禁止されており、公示前に選挙運動用のポスターを掲示することも厳禁です。

政治活動用ポスターの掲示が禁止される期間
任期満了による選挙任期満了日の6ヶ月前の日~選挙期日
任期満了以外の選挙選挙事由発生の告示の翌日~選挙期日
衆議院の解散解散の日の翌日~選挙期日

演説の内容

たすきやのぼり旗、ビラ等の扱いにも増して、街頭演説で訴える内容にも注意が必要です。

選挙期日の公示前に行うことができるのはあくまでも政治活動ですから、演説の内容もその範囲に限定しなければならず、選挙運動(=事前運動)とみなされることがないように表現や言葉遣いに細心の注意を払わなければなりません

例えば、“○○○ミクスを加速させよう”、“ストップ○○政権”等のスローガンを発することに問題はありませんが、“時期○○選挙に立候補いたします○○です”、“次の選挙ではぜひよろしくお願いいたします”などのコメントは選挙運動に該当するため厳禁です。

具体的にここまでは許される、これ以上はアウトと言う明確な判断基準が公式に発表されているわけではなく、いわゆる“グレーゾーン”的な部分もある難しい問題ではありますが、“選挙運動”の概念を正しく理解して言葉を選ぶことが大切と言えるでしょう。

罰則

公職選挙法には多くの罰則が設けられていますが、事前運動の禁止違反に対する罰則は、“1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金”です(公職選挙法第239条第1項)。

また、文書図画の掲示規制に違反した場合、選挙管理委員会による看板等の撤去命令に従わない場合は2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金刑に処せられます(公職選挙法第243条)。

Memo

  • 事前運動の禁止違反:1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金
  • 文書図画の規制違反:2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金

検挙状況

法律違反である以上、事前運動や文書図画の規制違反は検挙の対象となりますが、前述の通り選挙運動と政治活動の区別が難しいケースもあり、警察にとってこれらの行為を立件することは簡単ではありません。

それもあってか、公示前のたすきの使用やポスターの掲示などの公職選挙法に抵触する行為が行われているにも関わらず当事者が検挙されることなく、結構な数の選挙違反が見逃されているのが実際のところでもあります。

また、このような事情を理解した上で、“どうせ捕まらないから”と高を括って事前運動や文書図画の掲示に該当する行為を行う人が少なくないとも言われますが、法的にも道徳的にもこれが許されないことは言うまでもないでしょう。

クリーンな選挙の実現には法整備だけでなく、選挙運動に関わる人々の良心や倫理観が問われることを思い知らされます。

選挙違反を発見した場合

事前運動はじめ、選挙違反と思われる行為を発見した場合は警察や選挙管理委員会に連絡することで、公正な選挙の実現に貢献することができます。

前述の通り政治活動と選挙運動の区別が難しいこともあり、当該行為を刑事事件として立件するか否かは警察の判断に委ねられることになりますが、選挙管理委員会に問い合わせたところ、疑わしい行為が報告された場合にはまず当事者への警告が行われるとのことでした。

これにより違反行為が繰り返されるのを防ぐことができますし、最近では動画投稿サイト等で選挙違反と思われる行為を確認する機会も少なくありませんので、私たち有権者1人1人のチェック能力が一層求められていると言えるのではないでしょうか。

総務省|都道府県選挙管理委員会ホームページ一覧

まとめ

選挙期日の公示前に選挙運動を行うことはできませんが、政治活動を行うことは可能です。

ただし、その範囲を超えることなく、事前運動の禁止や文書図画の掲示の規制に抵触しないように注意しなければなりません。

まとめ

  • 公示前に選挙運動をすることはできない
  • 政治活動は公示前に行うことができる
  • 公示前の政治活動は事前運動の禁止や文書図画の規制に抵触しないように注意が必要である

終わりに

今回は、たすきの使用やビラ撒きなど、公示前に注意すべき選挙活動について投稿しました。

自らが選挙運動を行うにあたり法律を厳守するとともに、選挙違反が疑われる行為を見つけた時は警察や選挙管理委員会に報告し、公正な選挙の実現を目指しましょう。

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